成年後見制度は、判断能力が衰えた方や判断能力を失った方を法的に保護するための制度です。この制度の利用により本人の行為能力に制限をかけ、その代わりに本人を支援する後見人を付けるのです。
事前対策あるいは事後対応としても成年後見制度は利用できますが、一定の手続きを必要とします。当記事では、その手続きを流れに沿って解説していきます。
目次
成年後見制度を利用するまでの流れは、「法定後見制度」と「任意後見制度」のどちらを利用するのかによって変わってきます。
法定後見制度について |
任意後見制度について |
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本人の判断能力が低下してから利用できる制度。本人の状態に応じて①後見人、②保佐人、③補助人のいずれかが選任される。※①②③の順に本人の行為能力は大きく制限される。 | 判断能力の低下に備えて本人が契約を交わすことで利用できる制度。①任意後見契約の締結ができる判断能力がある、②任意後見人となる人物を本人が選べる、という点が特徴的。 |
以降、制度別に手順を説明していきます。
「法定後見制度」に基づく手続きのおおまかな流れは次の通りです。
次に、後見等が開始されるまでの詳細を示します。
成年後見制度は、無償で利用できるものではありません。手続きの際に発生する費用、そしてその後の継続的な運用で発生する費用があります。
手続きの際に発生する費用は次の通りです。
※以下のすべてが常に発生するわけではありません。
裁判所への申立て前に、医師に診断書を作成してもらうことになりますが、別途「鑑定」を求められることもあります。この場合は、追加で鑑定費用が発生します。
また、法定後見制度に関して弁護士に相談をしたり手続を代行してもらったりしたときは、弁護士に対する報酬も発生します。
相談に対しては30分5,000円程が相場です。申立てまで広くサポートしてもらう場合、事案に応じて数十万円程発生することもありますが、具体的な金額は依頼先により異なりますので、事前に確認しておきましょう。
費用について考えるとき、ランニングコストとなる「後見人等への報酬」に注意が必要です。
申立ての費用だけではなく、その後も継続的に費用の負担が発生するからです。後見人等に対する報酬額は、本人の経済力等を鑑みて、家庭裁判所が決定します。
多くの場合、毎月発生する「基本報酬」は2~6万円程。不動産の売却や相続など、特別な仕事が発生するときは「付加報酬」として基本報酬の数十%が追加されます。
年間にして数十万円と、決して無視のできない負担が発生しますので、費用の支払いを続けられるかどうかにも着目する必要があるでしょう。
法定後見制度の申立てをするとき、医師の作成した「診断書」を提出します。そのためまずは病院で本人の状態を診てもらう必要があります。
診断書に記載された内容に裁判所の判断が拘束されるわけではありませんが、判断材料として重要な役割を果たします。
診断書のほか、法定後見制度の申立てには次の書類の準備が必要です。
ここに挙げたもののほか、本人のもつ財産の内容に応じて、例えば残高証明書や借金の存在を示せる契約書の写し、不動産登記事項証明書などを取得することもあります。
家庭裁判所に申立て費用を納め、必要書類を提出して、申立てを行います。
※申立て先となる家庭裁判所は「本人の住所地」を基準に定まる
窓口に直接提出しても良いですし、郵送により提出することも可能です。
申立てが受理されると、家庭裁判所による審理が始まります。
まずは提出書類に不備がないかのチェック。記載内容に問題がないかどうかが確認されます。
この審理の途中では、申立人や親族などに面接が求められるケースもあります。後見等の開始に対する意見、本人の状態などが確認されます。
審理には3ヶ月程がかかり、その後「審判」により後見等の開始が決定されます。
審判後、審判書が送付され、2週間以内に不服申立てがされないときは審判内容が確定します。
審判が確定すると、家庭裁判所は法務局に対して「後見登記」の依頼を出し、この後見登記がなされてから法定後見制度の利用が開始されます。
「任意後見制度」に基づく手続きのおおまかな流れは次の通りです。
後見等が開始されるまでの詳細を示します。
任意後見制度も利用にあたり費用が発生します。任意後見はまず本人が契約を交わす必要があり、その契約書は公正証書として作成されなければなりません。そのため公正証書の作成費用が必須です。
また、印鑑登録証明書や戸籍謄本、住民票などが必要となりますので、各種書類の取得にそれぞれ数百円程費用がかかります。
任意後見制度においても弁護士に相談・依頼をすることができます。相談料などは法定後見制度と変わらず30分5,000円程が相場です。申立ての依頼に数十万円かかることが多いのも同様です。
また、任意後見制度では任意後見契約書の作成が必須ですので、この契約書作成の依頼もすることになるでしょう。その分も含めていくらになるのか、依頼先の弁護士に確認しておくことが大切です。
ランニングコストも発生します。
任意後見人、そして同制度では「任意後見監督人」も必ず選任されますので、この人物に対する報酬も発生します。
任意後見人に対する報酬は、当事者間で定めることができます。親族が任意後見人になるときは、無償で対応することもありますが、弁護士などの第三者を指定するときは有償になるのが通常です。
法定後見制度における報酬と大差はなく、5万円前後が相場です。
なお、任意後見監督人に対する報酬は家庭裁判所が事情に応じて定められ、1~3万円程になることが多いです。
任意後見人になってほしい人材を探しましょう。人として信頼できること、その上で契約の締結や財産の管理などを適切に実行する能力がある人物を選定します。
※家族や友人、弁護士などの専門家に依頼することも可能
人物の選定ができれば、当該人物と任意後見契約を交わします。この段階では任意後見人になっていませんので、ここでは「任意後見受任者」と呼ばれます。
また、任意後見を始めるには契約書の作成、それも公正証書の作成が必須です。
そのため当事者間の契約締結の場面では契約内容を決めるに留まり、制度上必要な書面は公証役場で作成することになります。交渉役場で予約を取り、その後公証人が書面を作成します。
本人の判断能力が低下し、任意後見を開始することになれば、必要書類の準備を進めていきます。
「申立書」とその他添付書類を用意します。
添付すべき書類は次の通りです。
その他、審理に必要な書類を求められることもあります。申立て先となる家庭裁判所で確認をしましょう。
必要書類を揃えて、家庭裁判所に「任意後見監督人」の選任の申立てを行います。
本人、配偶者、4親等内の親族、任意後見受任者に申立ての権限があります。
任意後見制度では、任意後見監督人の選任を受けて初めて後見の効力が生じます。当事者間の契約で定めた任意後見人に任せっきりでは不正が起こるリスクもありますので、家庭裁判所がその仕事ぶりをチェックするために任意後見監督人を付けるのです。
任意後見監督人が裁判所から選任され、任意後見に関する登記が行われれば、任意後見の運用を始めます。任意後見人は、本人と交わしておいた契約内容に沿って、法律行為や重要な財産処分行為などを支援していきます。