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任意後見人や成年後見人、保佐人、補助人は何が違う? 後見人の種類を解説

日本には成年後見制度があり、この制度を利用することで精神上の障害により判断能力に不安のある方でも法律行為についてサポートを受けられます。このときサポートしてくれる人を「後見人」と呼ぶのですが、厳密にはいくつかの種類に分けることができます。

当記事では、後見人にはどのような種類があるのか、それぞれの特徴や違いを整理して説明させていただきます。

 

 

任意後見制度に基づく後見人

成年後見制度は、①任意後見と②法定後見の2種類から成り立っています。

  • 任意後見:本人が後見人候補者と契約を交わし、サポートして欲しい内容などを当事者間で取り決めた上で開始する
  • 法定後見:本人の家族などが申立てを行い、本人の状態に応じて、特定の権限を持つ後見人が選任されることで開始する

法律行為を行うことに対してすでに不安があるという場合は法定後見を、まだ元気はあるが将来への備えをしたい場合は任意後見を利用することになるでしょう。まずはこの任意後見に基づく後見人について紹介します。

 

任意後見人

任意後見が開始されるときの後見人は「任意後見人」と呼ばれます。

任意後見人は、後述の成年後見人などとは異なり、自動的に広範な権限が与えられるものではありません。しかし、被後見人となる本人との契約内容次第で幅広い権限を持つことは可能です。どこまで任意後見人にサポートしてもらうのか、契約を交わす当事者は専門家を頼りつつ、適切な設計を行うことが大事です。

例えば契約書によく記載される委任事項としては次のものが挙げられます。

  • 預貯金の払い戻し(払い戻しをするのに毎度本人が委任状を作成する必要がなくなる)
  • 介護に関わる契約(要介護認定申請の権限、介護サービスや介護保険の契約などをできるようにする)
  • 施設への入所に関わる契約(介護のみならず本人の住まいにも関わってくる委任事項)
  • 訴訟委任(訴訟が円滑に進められるよう、訴訟行為の委任について定める事項)

なお、任意後見人をつけるためには、裁判所に「任意後見監督人」を選任してもらう必要があります。当事者間で取り交わした契約内容に従ってきちんと仕事をできているかどうかをチェックする役割を担う人物です。この選任までしてもらってようやく後見が開始されるのです。

 

法定後見制度に基づく後見人

続いて法定後見の利用時に選任される後見人の種類を紹介していきます。前項の任意後見と異なり、本人との契約書作成は必要ありません。申立権者が裁判所に申し立てを行うことから始まります。

 

成年後見人

本人がほとんどの行為に関して自分で判断ができなくなっている場合は「成年後見人」の選任を求めて申立てを行うことになるでしょう。例えば重度の認知症を患っている場面などです。

本人(成年被後見人)に判断能力がなくなっていることから、成年後見人に認められる権限の範囲も比較的広く、①同意権および②代理権が認められます。

同意権とはつまり、本人が後見人の同意なく行った行為に関して、後から取り消すことができるという取消権の裏返しともいえる権利です。
代理権は本人の代わりに法律行為を行うための権利を意味します。

審判後、後見が開始されてからの本人はほとんどの法律行為を自分1人ですることができなくなりますが、日常的に使用する消耗品など、日用品の購入に関しては1人でもすることが可能です。

 

保佐人

「判断能力がないとまではいえなくても、重大な契約などを交わすには不安がある」という場合は保佐人の選任を求めて裁判所に申立てを行います。

保佐人にも①同意権と②代理権を付与することはできますが、範囲は限定的です。

保佐人の同意権

民法に規定された特定の行為。

例)借金をする行為、保証人になる行為、不動産を買う行為、訴訟行為、遺産分割 など

保佐人の代理権

原則代理権はない。

別途、特定の行為を指定して、代理権を付けるための申立てをすることで付与される。また、このときの申立てには本人(被保佐人)の同意が必要。

 

補助人

「時々判断能力に不安がある」「基本的には1人で対応しても問題ないが、不動産売買に関してはサポートできる状態にしておきたい」などの場面では、補助人の選任を求めて裁判所に申立てをすることになります。

軽度な認知症を患っているなど、本人の判断能力がやや不足していると評価される程度である場合に限り選任されます。逆に「著しく判断能力が足りていない」「判断能力がない」と評価されるような場合は上の保佐・成年後見などを利用しなくてはなりません。補助開始の審判をすることはできなくなります。

補助人に与えられる権限はさらに狭まり、①同意権と②代理権のいずれについても特定の行為を指定した上で申立てを行う必要があります。

補助人の同意権

民法に規定された行為の一部。申立てをした範囲に限られる。

補助人の代理権

原則代理権はない。

別途、特定の行為を指定して、代理権を付けるための申立てをすることで付与される。また、このときの申立てには本人(被補助人)の同意が必要。

なお、補助開始の審判をするにも本人の同意がなくてはなりません。

 

後見人の種類まとめ

後見人の種類は、まず「任意後見制度」と「法定後見制度」の違いから分類することができます。それぞれの利用パターン、そしてそれぞれの申立て件数は次のように分けることができます。

 

判断能力

任意後見制度

法定後見制度

現在は元気

任意後見人

(+任意後見監督人)

自分でほとんど判断できない

成年後見人

時により判断がつかない

保佐人

時々判断力に不安がある

補助人

 

《 後見人別の申立て件数の実態 》

  • 任意後見人(任意後見監督人の選任の申立て)

800件前後/年

  • 成年後見人(後見開始の申立て)

27,000件前後/年

  • 保佐人(保佐開始の申立て)

7,000件前後/年

  • 補助人(補助開始の申立て)

2,000件前後/年

参照:裁判所「成年後見関係事件の概況」

任意後見に関しては、被後見人となる本人との契約次第でできることの範囲が異なります。一方の法定後見に関しては、民法で権限が定められており、別途裁判所の許可を得て権限を追加することが可能になっています。この3者については次のように特徴を示すことができます。

 

成年後見人

保佐人

補助人

開始条件

判断能力がなくなっている 判断能力不足の程度が著しい

判断能力に不足がある

※本人による同意が必須

同意権

(取消権)

すべての法律行為 民法で定められている特定の行為

申立てで指定した特定の行為

※本人による同意が必須

代理権

財産に関わるすべての法律行為 申立てで指定した特定の行為

※本人による同意が必須

申立てで指定した特定の行為

※本人による同意が必須

これら後見人に関する詳細、実際の運用方法、申立ての方法などに疑問のある方、あるいは「認知症に備えて法的な制度の利用を考えたい」と考える方は、一度法律事務所で相談することをおすすめします。