家族・親族の方が亡くなり、遺言書が見つかったときでも、勝手に封を開けないように注意してください。
封印されている遺言書に関しては家庭裁判所で開封すべきことが法定されており、勝手に開封をすることには過料等のリスクが伴います。トラブルを起こさないためにも、ここで解説する内容を参考に対応を進めていきましょう。
目次
身近な方が亡くなって、その方の自宅などから遺言書が見つかったとしても、封がされているときはその場で開けないように注意しましょう。
民法では次のようにルールを定めていて、勝手な開封を禁じています。
第千四条 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
2 前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
3 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。
見つけた遺言書は家庭裁判所に提出をし、検認の請求をしないといけない旨も定めています。
封がされている遺言書、封がされていない遺言書、いずれにしても「検認」の手続が必要です。
※検認とは、「遺言が存在していること」「遺言の内容」を相続人へ知らせること、そして「加除訂正、日付、署名などの状態」を明確にして、その後の偽造などを防ぐためにする手続。遺言の有効性を決めたり判定したりするための手続ではないことに留意。
そして封がされているものに関しては、この検認手続の過程で開封を行います。
全体の流れは次の通りです。
つまり、開封をするのは家庭裁判所です。そして開封時には相続人らの立ち会いを要します。
※相続人全員が出席しなくても検認をすることは可能であるため、その場に立ち会わなかった相続人がいたとしても検認手続にて遺言書を開けることはできる。
検認の手続を進めるには、まず家庭裁判所に対して申し立てを行わなければなりません。
なお、申し立ての際に遺言書を提出する必要はありませんが、封がされていない遺言書に関しては申立時にその写しを添付します。その他家庭裁判所から書類を求められることもあります。
申し立てが受理されてからは、家庭裁判所の指示に従って検認を行います。
検認は常に必要な手続ではありません。遺言書が「公正証書遺言として作成されているとき」や「法務局に自筆証書遺言を預けているとき」には検認が不要で、開封をしても大きな問題にはなりません。
遺言書には種類があり、公証役場で公正証書の1種として作成しているときは「公正証書遺言」と呼ばれます。この場合は公的な手続を経て公証人の手で遺言書が作成されるため、相続開始後に検認の手続を行う必要はありません。
そして原本は公証役場で保管されていますので、その写しが封をして自宅に残っていたとしても、開封をすることに問題はありません。すでに原本の状態は保存されていますので、改ざん等のリスクはないのです。
もし封筒に「○○公証役場」などと印字されているときは家庭裁判所ではなく公証役場に行って原本の確認を取ると良いでしょう。その前に開封をしてしまっても問題はありませんが、万が一公証役場で作成したものとは別の遺言書が入っていては大変ですので、一応開けずに保管しておくのが安全です。
遺言者が自分1人で作成する遺言書は「自筆証書遺言」と呼ばれます。この場合は原則通り勝手に開封をしてはいけませんし、検認の手続は必要です。
ただし2020年から運用が始まっている法務局での保管サービスを活用しているときは検認が不要です。検認同等の手続を預ける際に受けているためです。
原本も法務局に保管されていますので、その写しが入った封筒を開けても問題はありません。しかしながら、封をされているのが写しかどうかの判別が難しいときは一応開けずにおいておくのが無難です。
急いで開ける必要もありませんので、まずは法務局で保管されているものをチェックすると良いでしょう。
封のされた遺言書を勝手に開けてしまうことで様々なトラブルに巻き込まれる可能性があります。
民法では、家庭裁判所で開封すべき遺言書を勝手に開封したとき、過料と呼ばれるペナルティを課す旨を定めています。
第千五条 前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。
「過料」とは行政上のペナルティのことで、刑罰とは異なります。そのため開封することが犯罪になるわけではありませんし、前科が付くわけでもありません。それでも違法行為ではありますし、最大で5万円の支払いを強制されるリスクがありますので避けるべきでしょう。
封のしてある遺言書を開けることは違法な行為ですが、開けてしまっても無効になってしまうことはありません。そもそも検認は遺言の有効・無効を決める手続ではなく、その後の改ざん等を防ぐための手続です。
ミスで開けてしまったとしても遺言書そのものに問題がなければ依然有効なままで、開けてしまった人から相続権が剥奪されることもありません。
ただし、他の相続人や親族から改ざん等の疑いをかけられる危険性はあります。もし開けてしまっても一切中には触れず、家庭裁判所に持って行くようにしましょう。