成年後見制度を利用すれば、銀行での手続をサポートしてもらうことができますし、騙されて契約しても取り消してもらうことができます。
こうして、成年後見制度により安心して暮らしていくことができるのですが、利用にあたってはいくつか注意しておきたい点もあります。当記事でその内容を説明していきますので、成年後見制度の利用を考えている方はぜひ目を通してください。
目次
成年後見制度には「任意後見」「法定後見」の2種類があります。それぞれ異なる特徴を持ちますが、法律行為をサポートするという大きな目的は同じであり、注意点についてもいくつか共通しています。
後見人等がつくことで、法律行為を代わりにしてもらったり、本人のした契約を取り消してもらったりできます。ただ、本人のする行為すべてが対象になっているわけではありません。
例えば日常生活でのちょっとした買い物などは対象外です。「食料品などの日用品を多く買いすぎたから」などと、その行為をなかったことにはできません。また、本人の自己決定権を尊重するという観点からも日用品の購入程度の行為は本人に任されているのです。
また、同制度を使っても後見人等自身による介護がなされるわけではありません。食事や入浴、排せつなどの補助などの行為は“事実行為”と呼ばれ、同制度で支援対象としている“法律行為”とは異なるものです。
成年後見制度は、当事者間の話し合いや約束(契約)で開始できるものではありません。法定後見であれば家庭裁判所による「後見等開始の審判」、任意後見であれば家庭裁判所による「任意後見監督人の選任」を受ける必要があります。
本人が望めば好きに始められるものではなく、法律に則った厳格な手続が必要である点に注意してください。基本的には次のように手続が進行します。
同制度は「判断能力に不安がある方を法的に支援すること」が主目的ですが、その原因が精神上の障害にある方を対象としています。そしてここでいう“判断能力”と“精神上の障害”とは次のことを指します。
そのため「身体障害があって困っている」「浪費癖で困っている」といった場面で利用できる制度ではありません。
いったん申立てをすると、申立人自身もその後自由にそれを取り下げることができなくなります。有効に取下げるには家庭裁判所の許可が必要で、その理由が「候補者として推薦した方が後見人等になれなさそうだから取下げよう」といった内容だと原則として認められませんので注意してください。
成年後見制度の利用には費用が必要です。
※この費用は原則申立人が納めないといけないが、地域によっては経済的な余裕がない方に向けて市区町村が助成を行っているケースもある。
《 申立てにかかる費用の例 》
また、申立て費用とは別に「後見人等に対する報酬」が発生するケースもあります。報酬が発生するのは、成年後見人や保佐人、補助人が家庭裁判所に「報酬付与の申立て」をした場合です。これに家庭裁判所が許可した場合、成年被後見人等である本人の財産から今後報酬が支払われることになります。
各種監督人(任意後見監督人も含む)についても同様で、報酬付与の申立てが行われて許可があると、本人の財産からその分が支払われます。
なお、任意後見人については任意後見契約で定めたルールに従います。
任意後見でも家庭裁判所の関与を受けますが、当事者間によるルールの策定から始まります。このことに関連していくつか注意点があります。
任意後見は、支援をしてほしい本人と支援を行う任意後見人(この段階ではまだ任意後見人ではなく「任意後見受任者」と呼ばれる。)の契約に基づいて実行されます。
そこで何をして欲しいのか、どういったルールに従って後見をしてもらうのか、報酬はどうするのか、といった取り決めを任意後見契約に定めていきます。そして契約を有効に成立させるには本人に判断能力が必要ですので、少なくとも契約段階では本人に判断能力が残っていなくてはなりません。
何をもって「判断能力がある」と評価するのか明確な線引きをするのは難しいため、軽度の認知症などすでに不安があるという場合は弁護士など専門家に相談しておくことが重要です。
任意後見では契約書を公正証書として作成しなくてはなりません。公証役場で手続の予約を取って、公証人に書面を作ってもらう必要があります。
また、公正証書が作成できてもまだ後見は始まりません。実際に本人の判断能力に問題が生じてから家庭裁判所へ「任意後見監督人の選任」の申立てを行い、その選任がなされてからようやく任意後見が開始されます。
いつでも本人が任意に始められるわけではなく、いくつか公的機関での手続が必要ということに注意してください。
法定後見は判断能力がなくなったり不十分になったりした後から手続を始めます。事後的な対処ができるのは大きな利点ですが、この場合は任意後見に比べて自由度が低くなることに留意しましょう。
法定後見の場合、後見人や保佐人、補助人は家庭裁判所が選任します。申立人が候補者を立てることもできますが、その方が後見人等になれる保証はありません。
特に次のような事情があるとき、候補者がなれない可能性は高まります。
後見等開始に関する審判には不服申立て(即時抗告)ができますが、「後見人等の人選に不満がある」という理由での不服申立ては認められません。
法定後見を始めると、本人のできる行為に制限がかかることも覚えておきましょう。本人が法律行為をできなくなる、あるいは同意を得てからでなければ行為ができなくなる、資格や権利を失う、といったことが起こります。
※任意後見ではこうした行為能力の制限が起こらない。
この制限の内容も①後見、②保佐、③補助、の3段階に分かれています。
単独での日常生活が困難な成年被後見人(①)については、すべての法律行為が支援対象になる反面、本人への制限も大きいです。日用品の購入程度の行為を除き、法律行為が広く制限されますし、印鑑登録もできなくなります(例外的にできるケースもある)。また、裁判所への訴えの提起、特許の申立てなども制限されてしまいます。
被保佐人(②)に関しては、特定の重要な行為について制限されます。例えばお金の貸し借り、不動産の売買などをするには保佐人の同意を得なくてはなりません。なお、被補助人(③)は指定された特定の行為についてのみ支援を受けますので、制限される範囲も狭く、被後見人や被保佐人に比べるとその影響は小さいといえます。
いずれにしろ結婚・離婚といった身分行為は本人ができますが、法定後見の申立て前には一度弁護士に相談し、今後の生活がどう変わるのかを把握しておくことが大事です。