相続が開始したとき、相続人などの遺族はさまざまな手続きを行うことが必要です。手続きには告別式やお通夜のほかに、役所への書類の提出、ほかの相続人と財産の帰属先をめぐる話し合いなどがあり、期限が定められているものもあります。ここでは、必要となる相続手続きとその流れについて解説していきます。
目次
相続が開始したとき(被相続人が死亡したとき)、相続人などの遺族は大きく分けて以下の2つの手続きを行う必要があります。
被相続人の生前の法律関係の事務処理としては、具体的には以下の手続きです。
【市区町村役場で行う手続き】
【勤務先で行う手続き】
また、被相続人が自営業者だった場合など、本来、確定申告を行う必要がある場合は、相続人が代わりに申告を行う「所得税の準確定申告」手続きもあります。この準確定申告の手続きは被相続人の住所地を管轄する税務署で行われます。
相続人が行う手続きの中で特に重要なのが、この相続財産の処理手続きです。具体的には次のものがあります。
これらの手続きについては後述で解説します。
相続手続きには期限が定められているものがあり、期限以内に行わなければ重大な不利益が生じるものもあります。一般的に挙げられるものとしては、次のものがあります。
特に重要なものとしては、②相続放棄・限定承認の申述(3か月以内)と、④相続税の申告・納付(10か月以内)です。②については、所定期間内に手続きしないと、相続財産をプラス財産からマイナス財産まですべて相続することになります(「単純承認」という)。そのため、借金などのマイナス財産が多い場合は、親の借金をすべて肩代わりしなくてはならない事態になりかねません。また④については、期限以内に手続きを行わなければ、追徴課税等の対象となります。
手続きの期限は、「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」を開始時点(起算点)とします(④は、「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内」)。相続は被相続人が死亡したときから開始します(民法882条)。
被相続人の死亡後、7日以内に死亡届を市区町村へ提出しましょう。この死亡届を提出しなければ、火葬や納骨に必要な「埋火葬許可証」が発行されないため、出来るだけ早めに提出するようにしましょう。届の用紙は、役場や病院にあります。
またお通夜や告別式を終えたら、前述の「(1)被相続人の生前の法律関係の事務処理」などの各種事務手続きを進めておきましょう。以下は主に「(2)相続財産の処理」の手続きに関して解説していきます。
相続財産の処理をめぐる手続きは、まずは被相続人に遺言書がないかを確認する作業から始めます。
自筆証書遺言(被相続人が自筆で作成した遺言書)の場合は、自宅の中で重要なものを保管していそうな場所などを中心に探しましょう。公正証書遺言(公証役場で公証人と一緒に作成した遺言書)の場合は、公証役場に原本があるため、役場に問い合わせてみましょう。
遺言書(自筆証書遺言)を発見した場合、被相続人の最後の住所地を所轄する家庭裁判所で検認手続きを行わなければなりません。なお、公正証書遺言や、2020年(令和2年)7月開始の法務局保管制度を利用している場合は、検認は不要です。
後述の遺産分割協議では、相続人全員で行わなければならないため、誰が相続人となるかを確定する作業が必要です。被相続人の戸籍謄本類(戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本)などを市区町村へ請求して確認しましょう。
なお、戸籍謄本類は不動産や銀行預金などの名義変更手続きなどでも必要となります。
被相続人にどのような財産があるのかを調査し、調査内容をリストアップして財産目録を作成します。この調査をもとに相続放棄等を行うかどうかを判断するため、非常に重要な作業です。
調査方法としては、書斎の机やタンスの引き出しなどの身近な場所、郵便物、預金通帳、各取引先(金融機関や、不動産がある場合は法務局など)、市区町村役場などを確認しましょう。
相続財産に借金などの負債が多い場合は、相続放棄や限定承認を検討することになります。前述の通り期限が定められているため、相続放棄等を選択する場合は、期限内に被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所へ申述しましょう。
相続放棄を選択した場合、プラスの財産もマイナス財産もすべて相続しないことになります。借金などのマイナス財産のみを手放すことはできないため、注意しましょう。
被相続人が生前、所得税の確定申告が必要な者だった場合、被相続人に代わって申告手続き(準確定申告)を行う必要があります。
被相続人に確定申告が必要かどうかは、国税庁ホームページの列挙事項に該当するかどうかを確認しましょう(参考:国税庁「確定申告が必要な方」)。
相続人の確定作業、財産調査が終了したら、「遺産分割協議」を行い、誰がどの財産を相続するのかを話し合いましょう。遺産分割協議自体には期限が定められているわけではありませんが、後述の「相続税の申告・納付」の際に遺産分割協議書が必要なため、出来るだけ早めに行いましょう。
相続人全員の参加が必要で、協議の内容をもとに遺産分割協議書を作成します。相続人だけでは話がまとまらない場合は、調停委員らが仲介する「遺産分割調停」や、さまざまな事情を総合考慮して裁判官が決定する「遺産分割審判」を利用するのもよいでしょう。これらの手続きは家庭裁判所で行います。
遺産分割協議を終えたら、各財産の名義を変更しましょう。各種名義変更の中でも、相続をきっかけとする不動産の名義変更を「相続登記」といいます。相続登記は相続した不動産の所在地を管轄する法務局(登記所)で行います。
そのほかの名義変更が必要な財産には次のものがあります(カッコ内は手続き先)。
多額の遺産を相続した場合、相続税の申告・納付が必要となることがあります。前述の通り期限が定められているため、忘れずに手続きを行いましょう。
相続税の申告は、基本的に相続財産の総額が基礎控除額を超える場合に必要となります。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という計算式から導き出され、例えば、法定相続人の数が3人の場合、遺産総額が4,800万円(=3,000万円+1,800万円)を超える場合に、相続税の申告が必要です。
納税額は自分で計算しなければならず、その計算方法もかなり複雑なので、税理士などに任せるのも一案です。しかし、財産が比較的少数の場合や、相続人の数が少なく揉めていない場合(あるいは1人しかいない場合)では、税務署や税理士等からアドバイスを受けながら自分で手続きすることも可能です。該当者はまずは税務署等に相談しましょう(参考:国税庁「国税に関するご相談について」)。