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相続財産に借金があった場合に相続放棄手続きをする方法

相続財産に借金などのマイナス財産が多い場合、相続放棄などを検討することになります。しかし、周囲の者に「相続放棄をした」と宣言するだけでは、法的に相続放棄したとは認められず、家庭裁判所で所定の手続きを行う必要があります。

 

ここでは、相続放棄を行う際の手続きについて解説していきます。

 

 

1.相続放棄の基本事項

まずは相続放棄の基本事項について押さえましょう。

 

相続放棄とは?

相続放棄とは、預貯金や不動産などのプラス財産や借金などのマイナス財産も含め、すべての財産を引き継がないという意思表示のことをいいます。

 

相続人(財産を引き継ぐ人のこと)は相続の開始により、基本的には被相続人(故人のこと)の有していた財産上の権利や義務などをすべて承継することになります。しかし、例えば被相続人に多額の借金がある場合、その借金をすべて相続人が肩代わりしなくてはならないとなると、相続人にとって非常に酷な結果となるでしょう。また被相続人に借金がない場合でも、親族間の相続財産をめぐるトラブルに巻き込まれないようにするため、財産の持ち分から手を引きたいと考えるケースもあるでしょう。そこで、民法は相続放棄の制度を設けて、財産を引き継ぐか放棄するかの選択の余地を与えています(民法915条以下)。

 

なお、相続放棄をする場合、すべての財産を放棄しなければならず、借金だけを相続放棄することはできないので注意しましょう。

 

 

相続放棄の期限と撤回

相続放棄を行うには、期限内に家庭裁判所で申述手続きを行う必要があります。期限は、「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」(一般的には被相続人の死亡時)から3か月以内で、この期間を熟慮期間又は考慮期間と呼びます。この期間は利害関係人または検察官の請求によって伸長することができますが、伸長を要する正当な理由などが必要なため、認められづらく、あまり期待しないようにしましょう。

 

熟慮期間内に所定の手続きを行わない場合、財産をすべてそのまま相続することになる(これを「単純承認」という)ので、相続放棄をするのであれば出来るだけ迅速に手続きを行いましょう。

 

ただし、相続放棄を一度行ってしまうと、基本的に撤回することはできず、これはたとえ熟慮期間内でも行うことはできません。例外的に撤回が認められる場合もありますが、例えば、未成年者が法定代理人の同意を得ないで相続放棄をした場合(民法5条)など、かなり限られたケースなため、熟慮期間の伸長と同様、あまり期待しない方がよいでしょう(民法919条2項等参照)。相続放棄はくれぐれも慎重に行う必要があります。

 

 

単純承認をしたと扱われるケース

熟慮期間内に手続きを行わない場合、単純承認したことになりますが、その他にも単純承認をしたとみなされる場合があります。

 

具体的には、相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき(例えば、不動産や動産などを売却または破壊した場合)、その相続人は単純承認したとみなされます(民法921条1号)。ただし、腐敗しやすい物を売却するなど、相続財産の保存を目的にした行為(保存行為)は認められます。

 

また相続人が相続放棄の申述をした後でも、相続財産の全部または一部を隠したり、勝手に消費したり、故意に財産目録に記載しなかったりした場合、相続を単純承認したとみなされます(同条3号)。

 

 

相続放棄を行う前に行うべき手続き

相続放棄を行う前提として、どれほどの借金があるのかを調査する必要があります(財産調査)。書斎の机やタンスの引き出しなどの身近な場所、郵便物、預金通帳、各取引先(金融機関や、不動産がある場合は法務局など)、市区町村役場などを確認し、負債額を調査しましょう。前述したように、相続放棄には期限が定められており、また相続放棄を行った後は基本的に撤回できないことから、この財産調査は非常に重要な意味を持ちます。綿密な調査を行いましょう。

 

財産調査と並行して、誰が相続人となるかの確定作業(相続人調査)も行っておくと、今後の手続きをスムーズに行える場合があります。

 

 

相続放棄の手続き

手続きの流れ

相続放棄の申述手続きは、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行います(参考:裁判所「裁判所の管轄区域」)。相続放棄申述書と後述の必要書類を提出すればよく、手続き自体は複雑ではありません。

 

相続放棄は、単独で申述することもできますし、ほかの相続人と共同で行うこともできます。

 

申述できるのは相続人ですが、相続人が未成年者又は成年被後見人の場合は、その法定代理人が代理して申述します。また未成年者等と法定代理人が共同相続人の場合、相続放棄によってほかの相続人の取り分が増え、利益相反関係になるため、未成年者等について特別代理人の選任が必要と考えられています(民法826条1項。ただし、法定代理人がすでに相続放棄をしている場合や、法定代理人と未成年者等が同時に相続放棄する場合は選任不要)。特別代理人の選任手続きは、未成年者等の住所地の家庭裁判所で行うことになります。

 

相続放棄をした者がいる場合、相続登記を申請する際などで家庭裁判所の「相続放棄申述受理証明書」を添付することが必要になります。それ以外の書面は本人が作成したものでも相続放棄を証する書面としては扱われません。

 

 

必要書類と費用

申述に必要となる書類には次のものがあります。

 

  • 相続放棄の申述書
  • 申述人(放棄する方)
  • 法定代理人等の戸籍謄本
  • 被相続人の戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本、住民票除票
    なお、必要となる戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本の範囲については、被相続人と申述人との続柄によって異なりますので注意しましょう。

 

またケースに応じて上記以外の資料の提出が必要となる場合がありますので、自己に該当するものを準備しておきましょう(参考:裁判所「相続の放棄の申述」)。

 

費用は、申述人1人につき収入印紙代800円と、連絡用の郵便切手代がかかります。

 

 

熟慮期間の伸長の申立て

熟慮期間の期限が迫っていても遺産がどのくらいあるのかわからなかったり、被相続人の債務の額がはっきりしなかったりして、単純承認をするか相続放棄をするかが決めきれない場合、熟慮期間の伸長を求める審判を申し立てることができます。

 

申立先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で、必要書類は、期間伸長申立書と、上記の戸籍謄本等です(参考:裁判所「相続の承認又は放棄の期間の伸長」)。申し立ては、自分の熟慮期間だけでなく、ほかの相続人の熟慮期間を伸長したい場合にも行うことができます。

 

申立の際は、伸長の期間や、伸長をしてもらいたい理由などを記載する必要があります。申立書や記入例は裁判所ホームページからダウンロードすることができます。