遺言書は法的な効力も持つ文書ですので、その作成方法についても厳格に取り決められています。例えば遺言者が1人で作成する自筆証書遺言だと手書きで遺言を書き記さないといけないなど、その他様々な制限があるのです。
そのためパソコンで作成できる範囲も限られており、作成作業に取り掛かるときは法律上のルールも詳細に理解しておくことが大事といえます。当記事では「手書きが求められている作業」と「パソコンでも対応可能な作業」を整理します。
目次
遺言については民法という法律でルールが定められています。そこには、緊急時以外の普通方式について①自筆証書、②公正証書、③秘密証書の3種があると記されています。
(普通の方式による遺言の種類)
第九百六十七条 遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。
自筆証書とはその名の通り自筆することで作成するタイプの遺言で、公正証書は公証役場で公文書として作成するタイプの遺言。秘密証書は遺言者自身で作成を行ったうえで存在証明のみをしてもらうタイプの遺言です。
それぞれで異なる作成要件が法定されていますので留意してください。
「自筆証書」としての遺言は、結論からいうとパソコンでの作成ができません。ただし部分的にパソコンを使用することはできます。
遺言書のメインとなる部分など、全文をパソコンで作成することは認められていません。次の4つの要件は満たさないと作成ができないのです。
本人がパソコンを使って作成しても“自書”をしたことにはならず、手書きでの作成が欠かせません。
遺言書を作成するにあたり、相続財産を一覧にした「財産目録」を添付することもあります。預貯金のこと、不動産のことや株式の詳細などを記した財産目録に関してはパソコンで作成してもかまいません。
かつて自筆証書においては財産目録も手書きであることが求められていました。しかしこれは遺言そのものではありませんし、多種多様な財産をすべて手書きで対応するには大変な労力がかかってしまうことから、法改正によって自書であることは要件ではなくなったのです。
Excelやスプレッドシート、その他好きなソフトを使って作成することで効率的かつ見やすい一覧表が作れることでしょう。
ただし、「財産目録への署名押印」が必要であることには注意してください。
「公正証書」として作成する遺言書は、公証役場での手続を必要とします。内容は本人が考えますが、直接本人が文字を書き記すのではなく公証人が作成を行いますので、パソコンですべて作成することはできません。
公正証書は、私人の作成する私文書とは異なります。公務員の作成する公文書としての性質を持つものです。
そこで原本の作成にあたっては次の手順を踏む必要があります。
このような作成過程を経るためパソコンで原本を作成することはできません。そして1人で作成することもできず、公証人と2人以上の証人に内容を知られることとなります。
公正証書の遺言書そのものはパソコンで作成できませんが、その手続を進めるための提出資料に関してはパソコンで作成してもかまいません。
準備が必要なものとしては「本人確認資料」や「戸籍謄本」、そして財産の内容をまとめたメモや証人についてまとめたメモなども用意します。公的機関から発行してもらうものもあれば、自分で作成すべきものもあります。自分で作成する資料に関してはパソコンで作成しても問題ありませんし、そうした方が効率的に手続を進められるでしょう。
「秘密証書」と呼ばれるタイプの遺言書は、自筆証書や公正証書のタイプに比べるとあまり活用はされていません。“秘密”と呼ばれてはいるものの完全に遺言書の存在を隠すことはできませんし、公正証書を作成するときのように公証人や証人の関与を受ける手間も発生します。
ただ、こちらは大部分をパソコンで作成することができます。
秘密証書遺言を作成する要件は次の通りです。
ポイントは、自筆証書のように“自書”が必須とされていない点と、遺言書への署名押印が必要とされている点にあります。
自書が必須ではないため遺言本文はパソコンで作成したものでもかまいませんが、そこに署名をする必要がありますのですべてをパソコンで済ませることはできません。最後に手書きで氏名を書き記し、押印も行わなければいけません。