遺言書は、自身の財産や引き継ぎ、想いを伝えるために重要な手段です。その中でも「公正証書遺言」は特に安全性が高いとされている遺言書ですが、作成方法や内容によっては無効となるケースもあるため注意が必要です。
そこで当記事では、遺言書の作成を検討している方に向けて公正証書遺言の特徴や安全性、そして無効となる可能性について解説していきます。
目次
公正証書遺言とは「遺言者が公証人と2人以上の証人の立ち会いのもとで作成する遺言書」のことです。遺言者が口頭で遺言内容を述べ、公証人がそれを文書化します。
《 公正証書遺言の特徴 》
公正証書遺言と並んでよく作成されるのが「自筆証書遺言」です。それぞれに長所・短所があり、より手軽・より低コストで作成できるのが自筆証書遺言の長所といえます。
一方、安全性の面で不安が残るのが自筆証書遺言の短所であり、この不安を払拭したいのであれば公正証書遺言を選択した方が良いといえるでしょう。
公正証書遺言が比較的安全性の高い遺言書とされている理由は、「法的な専門知識を持つ公証人が関与し、厳格な手続きを経て作成・保管されるため」といえます。
以下ではこの安全性の理由について深く見ていきましょう。
公正証書遺言の作成過程では、公証人が遺言者の遺言能力を確認します。
「遺言能力」とは、遺言の内容を理解し、自らの意思で判断する能力のことであり、公正証書遺言に限らず遺言書を作成するときには常に必要とされる能力です。
第九百六十一条 十五歳に達した者は、遺言をすることができる。
第九百六十三条 遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。
公証人となる方は長年の法律実務経験を持つ専門家であり、遺言者との面談を通じて、遺言者が健全な判断力を有しているかを見極めます。
自筆証書遺言でも同等の能力が必要とされますが、別途弁護士等に依頼をしなければその確認作業は省略される形となってしまうのです。
しかし公正証書遺言であればこの確認プロセスが間に入り、後々「遺言者には遺言能力がなかった。」という理由で遺言書が無効になるリスクが大幅に軽減されます。
認知症や精神疾患の疑いがある場合でも、公証人が慎重に判断し、必要に応じて医師の診断書を求めるなど、適切な対応を取ることができます。
遺言書は遺言者自身で作成するのが原則ですが、公正証書遺言の場合、直接書面を作成するのは公証人です。
もちろん遺言の内容は遺言者で考えるのですが、筆記の作業は公証人が担うため、より不備が生まれる危険性を回避しやすくなります。
たとえば遺言書の種類に応じて作成要件が法定されているのですが、公証人は法律のプロですので法定の要件を満たさないまま作成してしまうリスクはかなり小さいです。
自筆証書遺言だと法律に詳しくない一般の方がご自身で調べて要件を満たすように作成しないといけません。
また、法的に正確・明瞭な表現を用いて遺言内容を書き記すこともできます。記載した文言に意図したものと異なる解釈の余地ができてしまうと相続人間で意見が割れて揉めてしまうおそれがあるため、意味が明確な書き方をするのはとても大事なことなのです。
公正証書遺言の原本は、作成後、公証役場で厳重に保管されます。遺言者自身で管理をしなくても良いことから、次のような恩恵を受けることができます。
さらに、「遺言情報管理システム」が構築されていることによって、相続人等の利害関係者は、遺言者の死後全国の公証役場で遺言書の有無を確認することができます。
他の遺言書だとどこに保管されているのかわからず各所を探し回らないといけませんが、公正証書遺言であればこのシステムにアクセスすることで遺言書の存在を見落としてしまうリスクも最小限に抑えられます。
公正証書遺言は安全性が高いものの、「絶対に有効な遺言書」というわけではありません。たとえば次のようなケースに該当すると無効になることもあります。
無効となるケース | 具体的な状況 |
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遺言能力が欠如していた | 遺言者に認知症や判断力の低下があり、公証人がそれを見逃したケース。 公証人の関与があっても遺言能力を備えていたと保障されるわけではない。 |
不当な誘導・詐欺を受けていた | 介護者や親族による心理的圧力、財産管理者による誘導や操作、専門家による不適切な助言などにより、遺言者の自由な意思が歪められていたケース。 表面上は適法に見えることから公証人も気づきにくい。 |
法律効果の勘違い(錯誤)があった | 遺言者が法的用語や効果を誤解していたり、財産の価値や範囲、相続人の状況に関して誤った認識を持っていたりしたケース。 ただし、エンディングノートなど別の資料から真意が証明されないと勘違いに気付くこと・勘違いであると主張することは難しい。 |
証人として不適格な人物が立ち会った | 未成年者や推定相続人、受遺者(遺言書により遺産の譲与を受ける人物)、そして推定相続人や受遺者の配偶者・子・親などは証人として不適格である。これらの人物が証人として作成してしまったケース。 通常は公証人が確認を行うためこの点が問題となる可能性は低いがチェックに漏れがあると無効にもなり得る。 |
では最後に、公正証書遺言が無効となる問題を回避し、できるだけ有効な遺言書を作成するために押さえておきたいポイントをかんたんに紹介します。
これらのポイントに注意して公正証書遺言を作成することで、より確実に遺言者の意思を実現し、相続トラブルを防ぐことができます。