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秘密証書遺言について|長所・短所や他の遺言書との違いを解説

遺言書には3種類あります。遺言者が1人で手軽に作成できる「自筆証書遺言」、厳格な手続きを経て公証人に作成してもらう「公正証書遺言」、そしてその中間的な特徴を持つ「秘密証書遺言」です。

当記事ではこのうちの秘密証書遺言について詳しく解説していきます。

 

 

秘密証書遺言の概要

秘密証書遺言とは、「遺言内容は秘密にしつつも、本人による遺言書であることについて証明をしてもらって作成する遺言書」のことです。

各遺言書の作成方法については民法という法律で定められていますので、次の方法に従い作成された遺言書が秘密証書遺言として有効に成立します。

 

一 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
二 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
三 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
四 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。

引用:e-Gov法令検索 民法第970条第1項各号

 

遺言者自身で文書を作成し、その書面に署名および押印を行います。その書面は封筒に入れ、さらにその封筒に同じ印鑑を使って押印。その後は公証役場に持って行き、自分自身で作成した遺言書である旨および自らの氏名・住所を公証人に申し述べます。
これを受け公証人が必要な記載を行いますので、遺言者と一緒に立ち会った証人2人とともに署名および押印を行い、秘密証書遺言が完成となります。

 

秘密証書遺言の特徴

秘密証書遺言の特徴を、以下の長所・短所から説明していきます。

 

長所

秘密証書遺言の長所は、「公正証書遺言のように遺言書の偽造や変造を防ぐことができ、かつ、記載した内容については公証人や証人を含み誰にも知られずに作成できること」にあります。

 

短所

短所としては次の点を挙げられます。

  • 作成要件を満たして有効な遺言書が作成できても、記載した内容の法的な不備を防ぐことができず効力が得られない可能性があること
  • 遺言書の保管については遺言者自身に任せられるため、自らの責任で考える必要があり、保管方法によっては紛失や破棄されたりするおそれがあること
  • 亡くなった後で相続人は遺言書を家庭裁判所に持って行き、検認の手続きを行わなければならないこと
  • 作成するときに証人を2人以上用意しないといけないこと

 

他の遺言書との違い

「どの遺言書を選ぶといいだろうか?」と考えるときは、それぞれの特徴を比較しながら検討を進めましょう。以下では、秘密証書遺言と自筆証書遺言・公正証書遺言の違いを簡単に整理します。

 

自筆証書遺言との比較

自筆証書遺言の良さは「作成の手間が少なく手軽である」という点にあります。
一方で、①記載内容が無効になるおそれや、②そもそも遺言書としての形式を満たさず無効になるおそれも秘めています。また、③保管上のリスクもありますし、④作成するときは全文を手書きしないといけない(添付する財産目録については手書きしなくてもよい)という難点もあります。

秘密証書遺言の場合は公証役場で作成手続きを行う必要がありますので、コストがかかりますし作成の手間も比較的大きくなります。また、上の①③の難点があることについては自筆証書遺言と変わりありませんが、③に関しては自筆証書遺言だと法務局の保管制度を利用することでリスクを回避できます。秘密証書遺言は法務局で安全に保管してもらうことができないため、保管方法についてはよく考える必要があるでしょう。

ただ、封をしたあとの作成過程については公証人が関与しますので②のリスクが少し小さくなりますし、パソコンを使って作成してもいいため④の問題は生じません。

 

公正証書遺言との比較

公正証書遺言の良さは「安全・着実に作成できる」という点にあります。また、公証を受け厳格に作成するため「亡くなったあとの検認手続きが不要」という良さも持っています。
一方で、①作成の手間が大きい、②コストがかかる、③証人の用意が必要、④作成に立ち会った人物に記載内容が知られる、という難点も持っています。

秘密証書遺言は公正証書遺言ほど確実な作成手順を踏むわけではありませんし、検認手続きも省略ができません。また、公正証書遺言ほどではないにしろ①②の問題が発生しますし、③については同じ負担を負います。
しかしながら、④については心配不要です。絶対に誰にも知られたくないという場合には秘密証書遺言を選ぶことも視野に入れると良いかもしれません。

ただし、秘密を維持したいなら自筆証書遺言でも可能です。さらに、自筆証書遺言なら法務局で安全に管理してもらえるうえ、保管制度を利用する際に検認同等のチェックが行われますので、形式的な不備も多少は回避することができます。
そのため保管方法について不安があるのなら“自筆証書遺言+法務局による保管制度の利用”という選択肢も検討すると良いです。