遺言書は、法に則り無効にならないように作成しなければなりません。また、遺言書の種類によってその要件や具体的な手順、作成の流れは異なります。
そこでこの記事では、特に利用されることの多い自筆証書遺言と公正証書遺言につき、「遺言書を作成する流れ」や「作成にあたっての注意点」などを解説し、準備すべき書類に関しても紹介していきます。
自筆証書遺言を選んだ場合でも公正証書遺言を選んだ場合でも、遺言の内容が変わるわけではありません。基本的には「誰に」「どの財産を」「どれほど与えるのか」といった内容がメインになるでしょう。
そこで、まずは相続人とそれぞれの法定相続分、そして遺留分を把握しておきましょう。
遺言がなければ遺産を渡せないわけではありませんし、法定相続分に従った遺産分割に問題がなければ無理に遺言書を作成する必要もありません。
ただ、「法定相続分を超えて特定の人物に財産を与えたい」「価額としては法定相続分で問題ないが、特定の財産を指定して渡したい」という場合には遺言書の存在が非常に役立ちます。被相続人の意思を反映させられるだけでなく、相続開始後の親族間で生じるトラブルを予防する効果もあります。
しかしながら、遺留分を侵害するほどの偏った遺贈はかえってトラブルを引き起こすおそれがあります。遺贈を受けた者以外が不満に感じるでしょうし、遺留分が認められる場合には結局遺留分侵害額請求が行われることで遺言書通りの財産分配は実現されなくなります。こうした問題を起こさないためにもまずは状況を整理する必要があります。
相続人等の把握のみならず、自らの財産を把握することも欠かせません。
財産の種類を整理するだけでなく価額が明らかでないものについては専門家に調査をしてもらい、価額の評価をしてもらいましょう。その上で、財産リストを作成します。
最後に、遺言書の種類を選択しましょう。
簡便なのは「自筆証書遺言」です。自分一人で作成ができます。
これに対し「公正証書遺言」は公証役場で手続きをしなければならず、自分で一人では作成ができません。その反面で遺言書が無効になるリスクを下げることができるというメリットはあります。
簡単に自筆証書遺言作成の流れを示すと、以下のようになります。
自筆証書遺言は、その名の通り自筆で遺言書の作成をしなければなりません。
全文手書きでなければならず、パソコンで打ち込んでプリントしたものでは認められません。そのため途中で書き直しが生じたりミスが発覚したりするのを防ぐため、いったん下書きを行うようにしましょう。
単なる誤字であれば大きな問題とはなりませんが、その誤字や脱字の内容によっては解釈が変わってしまうなどトラブルになる可能性があるため、一言一句しっかりとチェックをしなければなりません。誤字脱字のみならず、法的効力の問題をチェックする意味でも弁護士など法律の専門家に見てもらうことをおすすめします。
その他作成のポイントは以下です。
実印の使用や封印に関しては、これ自体が遺言書の成立要件ではありませんが、相続開始後のトラブルを防ぐために重要なことです。
自筆証書遺言に関しては保管が問題になることもありますが、近年「遺言保管制度」ができましたので、同制度の利用も検討すると良いでしょう。
同制度は、自筆証書遺言を対象に、法務局がその保管をしてくれるという内容です。多少のコストはかかりますが、安全に保管することができる上に、遺言書の方式不備が起こるリスクを下げることができます(ただし遺言内容の有効性までは担保されない)。
簡単に自筆証書遺言作成の流れを示すと、以下のようになります。
公正証書遺言の場合、公証役場にて所定の手続きを経ないといけないなど、手間とコストがかかってしまいます。しかし、実際のところそれほど大変な手続きではありませんし、自筆証書遺言の作成より負担が小さくて済むケースもあります。
というのも、公正証書遺言の場合には自分で筆記していくのではなく、直接の作成作業は公証人が担います。複数回の打ち合わせを通して遺言内容を決定していくことになりますし、自分で方式不備に関することなどで悩む必要がなくなるのです。
ただし、証人を2人用意できなければなりません。相続に利害を持たない友人、あるいは信頼のおける専門家に依頼しましょう。
作成は公証役場にて、証人2人と公証人とともに行います。作成された遺言書は公証人により読み上げられ、問題がないかどうかの確認がなされ、最後に全員で署名捺印します。
その他以下が公正証書遺言作成のポイントです。
なお、保管は公証役場でしてもらえますので安心です。
自筆証書遺言と異なり、公証人が作成に関与するため、手数料の支払いが必要になります。
公証人手数料に関しては「公証人手数料令」の内容に従って決せられます。
具体的には、11,000円を基準に「遺言の目的の価額」に応じた加算をして算出されます。それほど大きな金額にはなりませんが、以下のような手数料が発生するということは知っておくと良いでしょう。
遺言の目的の価額 | 11,000円に加算する手数料 |
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~100万円 | 5,000円 |
~500万円 | 7,000円 |
~1,000万円 | 11,000円 |
~3,000万円 | 17,000円 |
~5,000万円 | 23,000円 |
~1億円 | 29,000円 |
~3億円 | 43,000円 |
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必要書類も遺言書の種類によって異なります。
といっても自筆証書遺言に関しては必須とされる書類はなく、不備なく自筆で遺言内容を記載していけばそれだけで作成が可能です。
ただし実務上は、作成する方の「印鑑登録証明書」を用意しておくことが望ましいとされています。これにより、確かに遺言者の印が押されているということが示せるからです。その意味でも、やはり実印を使用しておくほうが良いです。
他方、公正証書遺言を作成する上での必要書類は状況に応じて多岐にわたります。
遺言の対象となる財産や人(法人も含む)によって細かな準備物が変わってくるため、詳しくは専門家に相談をしましょう。