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遺言書を保管する方法8選! 保管方法別のメリット・デメリットを解説

遺言書は、法令に則って適式に作成しないといけません。
そして正しく作成するだけではなく、その後適切な保管もし続けないといけません。

遺言書の保管方法としては、大きく8つに分けることができます。公正証書遺言の場合には公証役場での保管に限定されますが、自筆証書遺言として作成したときは、自由に保管方法を選択することができます。
ただし遺言書の紛失や改ざんといったリスクには十分注意する必要があり、コストとのバランスも考慮して保管方法は選ばないといけません。

そこで遺言書の保管方法に悩む方に向けて、ここで8つの保管方法の特徴、メリット・デメリットについて解説をしていきます。

 

 

遺言書の保管方法1:自宅で保管

公正証書遺言でなければ、自宅で作成してそのまま自宅で遺言書を保管することも可能です。
手続も必要ありませんので、もっとも手軽で、簡単な保管方法といえます。

 

自宅で遺言書を保管するメリットとデメリット

メリット

デメリット

コストがかからない 紛失のリスクがある
手続の手間がかからず楽 改ざんのリスクがある
遺言書の存在を誰にも知られずに済む 相続開始後、誰にも見つけてもらえない可能性がある

自宅での保管は楽ですし、遺言書を作成したことを知られたくないときは誰にも言わなければ隠し通すことも可能です。
一方で、誰にも遺言書の存在を伝えていない場合は、相続開始後も発見されず作成した意味がなくなってしまう可能性もあります。

とはいえ、推定相続人など遺言書に利害関係を持つ方に存在を伝えてしまうと、改ざんされるリスクなどが生まれてしまいます。

また、長期に渡り自宅で保管を続けているうち、紛失してしまうこともあります。

こういった問題があるため、あまり推奨できる遺言書の保管方法とはいえません。

 

遺言書の保管方法2:家族に預ける

ご自身で保管する場合、遺言書の発見が遅れる、発見されない、といった問題が起こり得ます。

そこで「家族の誰かに遺言書を預ける」というやり方も考えられます。

自分で保管するとき同様、手続やコストも必要がなく、手軽な方法であるといえます。

 

家族に預けて遺言書を保管するメリットとデメリット

メリット

デメリット

コストがかからない 紛失のリスクがある
手続の手間がかからず楽 改ざんのリスクがある
相続開始後、遺言書の存在がすぐに伝わる 遺言書の存在が知られてしまう

配偶者や子どもなどの家族は、ご自身が亡くなった後の相続人となる方々です。これらの人物に遺言書を預けておけば、相続開始後、すぐに遺言書の中身を確認し、意向に沿った遺産分割をしてもらえます。
相続人の方からしても、スムーズに手続が進められて楽です。

一方、紛失や改ざんのリスクにさらされる点は、自分で自宅に保管する場合と同じです。
また、遺言書の存在を隠すことができないというデメリットもあります。

 

遺言書の保管方法3:友人など身近な人に預ける

家族など、相続に利害関係を持つ方に遺言書を預けることはリスクが大きいです。改ざんのリスクがありますし、不正に遺言書に手を加えるようなことをしなくても、他の相続人から疑いをかけられる危険性があります。

そこで「相続に関して第三者となる友人などの人物に預ける」という方法も挙げられます。

 

友人などに遺言書を保管してもらうメリットとデメリット

メリット

デメリット

コストがかからない 紛失のリスクがある
手続の手間がかからず楽 改ざんのリスクは残る
家族に預ける場合に比べると、相続人間のトラブルが起こりにくい 相続開始の事実が伝わらなければ遺言書の存在が明らかにならない

 

遺言書の保管方法4:銀行の貸金庫に預ける

「銀行の貸金庫を利用して遺言書を保管する」という方法もあります。

銀行によっては、重要書類や貴重品、思い出の品、その他当該銀行が認める類のものであれば貸金庫に預けることができます。遺言書を預けられる銀行もあります。

 

銀行の貸金庫で遺言書を保管するメリットとデメリット

メリット

デメリット

紛失のリスクが小さい コストがかかる
改ざんのリスクが小さい 利用時や解約時、取り出すときに手続が必要で手間がかかる
遺言書の存在を誰にも知られずに済む 相続開始後、誰にも見つけてもらえない可能性がある

※口座から保管料が引き落とされることが多いため、取引履歴から確認できることもある

銀行のサービスを利用することになりますので、保管料としてコストが発生してしまうのは難点です。
しかし自宅で保管する場合に比べて安全性が高まります。

 

遺言書の保管方法5:信託銀行の遺言信託を利用する

信託銀行が提供する遺言信託のサービスを利用して遺言書を作成し、そのまま「信託銀行で遺言書を保管してもらう」という方法もあります。

なお信託銀行とは、銀行業務だけでなく「信託業務」や「併営業務」も行う銀行のことです。
銀行業務とは、預金や貸付といった普通銀行が一般的に行っている業務を指します。
一方信託業務とは顧客から信託された財産を管理および運用する業務を指します。

顧客としては、株式や不動産などの運用を任せたいときに利用することになります。

そして併営業務の1つに「遺言書の作成」や「遺言書の保管」などが含まれます。

 

遺言信託を利用して遺言書を保管するメリットとデメリット

メリット

デメリット

遺言書の作成からサポートをしてくれる コストがかかる
遺言の執行など、相続に関する幅広いサポートをしてもらえることがある 手続が必要で手間がかかる

幅広いサポートが受けられる反面、コストは大きくなりやすいです。遺言執行を依頼するときには遺産の評価額に応じて高くなることもありますし、信託銀行により料金設定は異なりますので事前によくチェックしておくことが大事です。

また、身分関係につき遺言書に記載するとき(子どもの認知や相続権の廃除など)や、相続開始後にトラブルが起こる可能性が高いと思われるような場合には、遺言書の信託が依頼できないこともあります。

 

遺言書の保管方法6:弁護士に預ける

「弁護士に遺言書を預けて保管してもらう」という方法もあります。

友人に預けることができるように、その弁護士と身近な関係性になくても、遺言書を預けることは可能です。弁護士であれば相続に利害関係を持ちませんし、法律のプロですので遺言書の作成から遺言の執行、その他相続に係る手続のサポートまで、一貫したサポートを行うことができます。

第三者に遺言書を預けることに不安を持つこともあるかもしれませんが、弁護士には弁護士法で次の通り守秘義務を負っています。

弁護士又は弁護士であつた者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う。但し、法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

引用:e-Gov法令検索 弁護士法第23条

遺言書について口外することで、弁護士としての評判を落とし、ペナルティを課される可能性もあります。
そのため何ら責任を負わない第三者に比べると、安心して遺言書を任せられるでしょう。

 

弁護士に遺言書を預けるメリットとデメリット

メリット

デメリット

遺言書の作成から相談ができる コストがかかる
遺言の執行など、相続に関する幅広いサポートをしてもらえる 改ざんのリスクがある
親族間でのトラブル、交渉にも対処できる

 

遺言書の保管方法7:公証役場で公正証書遺言を作成する

遺言書の1種に「公正証書遺言」があります。
公証役場にて、公正証書として遺言書を作成したときは、公正証書遺言と呼ばれます。

そしてこの公正証書遺言は、作成後、原本が公証役場に保管されます。
そのため自宅で保管したり誰かに預けたりといったことはできません。

しかし公証役場であれば安全に保管してもらうことができますし、作成過程でも公証人が関与するため、作られた遺言書自体の形式的不備が起こるリスクはかなり小さくすることができます。

 

公証役場で公正証書遺言を保管するメリットとデメリット

メリット

デメリット

紛失のリスクがない コストがかかる
改ざんのリスクがない 公正証書遺言の作成に手間がかかる
遺言書の形式的不備が防げる 基本的に相続人に通知されないため、相続開始後、誰にも見つけてもらえない可能性がある
検認が不要

なお公正証書は公証人法施行規則第27条にて「20年間」保管することが規定されているのですが、同時に、“特別の事由で保存の必要があるなら、その事由のある間保存が必要”とも規定されています。

公正証書が遺言書であることがその“特別の事由”にあたると解釈されており、公証役場の運用により半永久的、あるいは遺言者の生後120年保管されることもあります。

 

遺言書の保管方法8:自筆証書遺言保管制度を利用する

自分1人でも作成できる遺言書の種類は「自筆証書遺言」です。

公正証書遺言などでは証人が必要になるなど、1人では作成できないという問題があるのですが、自筆証書遺言ならご自身で好きなタイミングで気軽に作成ができます。
しかしながら、原本の保管に困ることもあります。

そこで近年設けられた制度が「自筆証書遺言保管制度」です。
所定の手続を行い、法務局で自筆証書遺言書を保管してもらえるという内容になっています。

 

自筆証書遺言保管制度を利用して保管するメリットとデメリット

メリット

デメリット

紛失のリスクがない

コストがかかる

改ざんのリスクがない

手続に手間がかかる

作成から保管までのトータルで考えると、公正証書遺言よりも低コストで済む

遺言書の形式的な不備は防げない

検認が不要

保管に関して不安を持っている方でも、自筆証書遺言保管制度を利用すれば、その後の紛失などのリスクを回避することができます。

ただ、遺言書を作成する過程はサポートしてくれないため、弁護士に相談するなどして適切に遺言内容の検討および遺言書の作成を進めていかなくてはなりません。

なお、2020年7月から運用が開始された新しい制度ですが、2023年1月時点で累計47,708件の申請が行われています。現在も毎月1,000件以上の申請が行われています。

参照:自筆証書遺言保管制度「本制度の利用状況について」

 

最適な遺言書の保管方法を検討しよう

ここでは8つの方法に分けて遺言書の保管について解説しました。
それぞれにメリット・デメリットがありますので、一概に「この保管方法が一番良い」とは言えません。

改ざん・紛失リスクの小ささを重視するなら公正証書遺言を作成して公証役場にそのまま保管してもらうことが有効ですし、自筆証書遺言保管制度の利用もおすすめできます。
しかしコストの小ささを重視するなら別の方法も検討することになるでしょう。

ご自身の状況を弁護士に伝え、「現状、どの保管方法が適しているといえるのか」「どうやって保管するのがおすすめか」と助言をしてもらいましょう。