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遺言書を無視して相続を進めると何が起こるのか

遺言書は単に被相続人の希望を記した文書ではありません。法律上も明確にルールが規定されており、法的な拘束力を持つ文書です。そのため遺言書を無視して遺産分割を行うことは原則として認められません。

遺言書に従わないとどのような問題が起き得るのか、そして遺言と異なる形で相続を進める方法についてもここで解説いたします。

 

 

遺言書は法的拘束力を持つ

適式に作成された遺言書は、被相続人の死亡と同時に効力を生じます。被相続人の最終意思を法的に保護するために機能する存在でもあり、単なるメモや遺産分割の参考資料となるわけではありません。

そこで遺言書が存在するときは、相続手続きは遺言内容を出発点として進めることが原則です。たとえ相続人が納得できない内容であったとしても、法律上、基本的には遺言が優先されるということを覚えておきましょう。

 

遺言書を無視して起こり得ること

遺言書を無視したからといって、直ちに刑事罰が科されるわけではありません。

しかし「遺産分割をやり直さないといけない」「相続人が行った処分行為が無効になる」などの問題が起こり得ます。

  • 遺産分割のやり直しが必要になるケース
    • 遺言の存在を知りつつ相続人等全員による合意を欠いたまま遺産分割した
    • 分割後に遺言書が見つかり、相続人の1人でも「遺言どおりにやり直したい」と主張した
  • 処分行為が無効になるケース
    • 特定の財産を受遺者に遺贈する旨が記されており、遺言執行者もいるのに、相続人が当該財産を第三者に売却した
      ※遺言執行者がいるとき、相続人は「遺言執行を妨げる処分等」をすることが法律上できず、これに反した行為は無効になる

遺産分割協議を再度行うとなれば大変な手間となりますし、無効な売却や名義変更によって第三者との間でトラブルが起こる可能性もあります。

 

悪質な行為には犯罪が成立する可能性もある

単に遺言内容を守らないだけではなく、遺言書を故意に捨てたり隠したりする行為をはたらいてしまうと、「私用文書毀棄罪」など犯罪が成立する可能性もあります。

私用文書毀棄罪の成立に対しては、5年以下の拘禁刑(旧懲役刑)が予定されています。

また、遺言内容を勝手に書き換えたり、被相続人名義で偽造したりした場合は、「有印私文書偽造罪(または有印私文書変造罪)」が成立することもあります。このケースにおいても拘禁刑が科されるおそれがあります。
※偽造した遺言書を使って相続手続きを進める行為自体にも犯罪が成立し得る。

 

遺言書があっても最低限の取り分は守られる

「遺言どおりに分割すると財産をほとんど受け取れない」という場合でも法律上の救済手段があります。

兄弟姉妹を除く法定相続人(配偶者・子・直系尊属)には「遺留分」という最低限の取り分が保障されているのです。

遺言がもし遺留分を侵害しているなら、侵害された相続人は「遺留分侵害額請求」を行い、算定された遺留分に対する不足分を金銭で請求できます。
※この請求は遺言を無効にするものではなく、あくまで金銭補償を求める権利に過ぎない。

※遺留分として保障される金額
遺留分は、直系尊属のみが相続人の場合は法定相続分の「3分の1」、それ以外の場合は「2分の1」という割合に、各自の法定相続分を乗じた値となる。

子ども3人が相続人になる場合、2分の1に法定相続分を乗じるため、遺産総額が6,000万円だとすれば次のように個別の遺留分が算定される。

6,000万円×1/2×1/3 = 1,000万円

→ 遺言書で全財産が他人に遺贈されたとしても、1,000万円を限度に請求が可能

 

遺言と異なる内容で分割できる条件

遺言書があっても、一定の条件を満たせば異なる形で遺産を分けることも認められます。

1つは「相続人全員と受遺者が合意している場合」です。

相続人の全員(と、遺贈の対象となる受遺者が相続人以外にいる場合はその方)による合意があれば、遺言書に従わず協議により自由に遺産分割を進めることが可能です。ただし紛争が起こらないよう、合意内容は必ず書面化し、全員が署名・押印しましょう。

もう1つ、「受遺者が遺贈を放棄した場合」にも異なる形での遺産分割が可能です。

遺贈を受ける側がその権利を放棄すれば、対象の財産は相続人に帰属し、相続人間で改めて遺産分割の協議を行うことができます。この場合もやはり放棄の意思表示を客観的にも示せるよう書面化してくべきです。

 

遺言内容や遺言書に不服があるときの対応

遺言内容や遺言書の存在自体に納得できない事情がある場合でも、感情的に動いてはいけません。まずは以下の点を整理してから対処方法を検討しましょう。

  • 遺言書の種類と有効性を確認する(形式不備による無効の可能性がないか)
  • 遺言執行者が指定されているかどうか確認する
  • 遺留分が侵害されていないか試算する
  • 相続人全員の意向を把握し、合意形成の見通しを立てる

一つひとつの判断を的確に行うためにも、早期に弁護士へご相談ください。場合によっては直接本人が手続きや交渉を行うより専門家が対処した方がスムーズに進むこともあります。相続は大きなトラブルに発展することもありますので、慎重な対応を心がけましょう。