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包括遺贈とは? 特定遺贈との違いや遺言書を作成するときの注意点を解説

遺産は相続人に分配されるのが基本的な流れです。しかしご本人が生前に遺言書を作成し、相続人以外の方に自らの財産を与える旨記載しておけば、遺贈として特定の人物に財産を渡すことも可能です。
ただ、この遺贈には「包括遺贈」と「特定遺贈」の2つの方法があります。意図した通りに財産を渡すため、トラブルなく相続をしてもらうためには遺贈の種類について理解しておくことが大切です。この点をここで解説していきます。

 

 

包括遺贈とは

包括遺贈とは、“相続財産の全部を遺贈すること”または“相続財産の一定割合を指定して遺贈すること”を指します。
そこで例えば「相続財産のすべてを友人のXに渡す」「相続財産の半分は孫のYに渡す」といった形で遺言書に記載した場合、これは包括遺贈を指定したことになります。

包括遺贈の場合、遺贈を受ける受遺者も相続人と同様の権利義務を得ることになります。このことは受遺者にとってプラスにもマイナスにも働きます。

 

特定遺贈との違い

特定遺贈とは、“相続財産に属する特定の財産を指して行う遺贈”のことです。
例えば「土地甲は弟のAに渡す」「現金500万円は姪のBに渡す」といった形で遺言書に記載した場合、これは特定遺贈を指定したことになります。

包括遺贈と違って、渡す財産の内容を具体的に指定する必要があります。
預貯金を対象とする場合には金融機関名や支店名、預金の区別、口座番号なども明記しておくことが大切です。土地などの不動産を特定遺贈するのであれば、登記上の記載に従い、どの物件を指しているのかが明確になるように記載します。

包括遺贈との違いでポイントになるのは、債務などマイナスの財産を承継する必要がないという点です。包括遺贈では割合で指定するため、その割合に応じた債務も引き継いでしまいます。そのため遺言者自身に借金がある場合の包括遺贈には要注意です。

一方で、相続が開始される前に遺贈予定として指定した財産が消失した場合、特定遺贈だと有効に機能しなくなるという問題があります。
例えば自宅を特定遺贈する旨遺言書に記載していたとき、火事により自宅がなくなると受遺者は何も受け取れなくなります。包括遺贈の場合でも取得できる全体の価額自体は下がってしまうものの、何も取得できなくなるわけではありません。

 

包括遺贈のメリット

包括遺贈を行う場合、上で説明した通り、財産の内容に変化があっても遺贈自体が無効にはならないというメリットがあります。
そのため特定の財産を渡す必要がなく、とにかく何かしらの財産を渡してあげたい、というニーズを満たすには包括遺贈が適しているといえるでしょう。

また、包括遺贈だと受遺者側で希望の財産を指定することもできます。
遺産分割協議に参加し、取得したい財産の希望をその場にいる相続人らに伝え、同意を得ることができれば好きに財産を選ぶことができます。不動産を遺贈するとなればその後の管理維持も大変ですし、かえって受遺者が負担を感じてしまうケースもあります。包括遺贈だとこうした心配をする必要がありません。

 

包括遺贈のデメリット

包括遺贈では指定された割合に応じてマイナスの財産も承継することになります。
大きな借金が含まれているおそれがありますし、受遺者としては相続財産の調査をするまで安心ができません。

また、遺産分割協議に参加しなければならないことが大きな負担になるおそれもあります。
相続人らとの関係性が良好で、問題なく話し合いを進められる場合にはデメリットになるようなことではないのですが、関係性が悪いケースなどには要注意です。遺産分割協議がなかなか進まず、場合によっては訴訟にまで発展する可能性があります。
そのため遺言者としては受遺者と相続人らとの関係性にも配慮する必要があるでしょう。

 

包括遺贈をするときの注意点

以上の内容を踏まえ、ご自身の財産を包括遺贈しようと考えている方は、次の点に注意するようにしましょう。

 

関係者間でのバランスを考慮すること

遺産は本来遺言者自身のものですが、だからといって好きに遺贈をしてしまうと揉める可能性があります。
相続人としてもある程度の財産を得られることを期待していますし、亡くなった方の経済力に頼っていた家族にとっては生活を続けるためにもある程度取得する必要があります。

そのため、法定相続人として遺贈がなければ相続財産を取得できたはずの人物にも配慮して遺言書は作成すべきです。

民法に規定されている法定相続分からあまりにかけ離れた結果とならないようにするなど、相続人が強い不公平感を感じないようにすることが大事です。

 

遺留分の侵害がないように配慮すること

たとえ相続人から不満が出たとしても、遺言書に記載をしておけばその通りに財産を渡すことは可能です。ただし限度はあります。

法律上、「遺留分」という“一定の相続人に認められている最低限の相続分”があります。
被相続人の配偶者や子、親など(兄弟姉妹には認められない)には、法定相続分の一定割合を取得する権利が民法で認められているのです。

これを侵害する形で遺贈をしても有効なのですが、遺留分権利者が請求(遺留分侵害額請求)をすれば、結局受遺者が金銭の支払いで対応することになってしまいます。

やはりトラブルの素となりかねませんし、関係者に手続や金銭など、様々な負担を強いることになってしまいます。そのため遺留分制度に配慮して遺言書を作成することが大切です。
包括遺贈をどの程度にするべきかなど、細かな点は弁護士に相談して決めていくと良いでしょう。

 

遺言執行者の有無を検討すること

遺言書の作成にあたっては、包括遺贈をする旨記載するだけでなく、遺言執行者の選任もしておくと相続開始後の手続がスムーズになります。

遺言執行者がいる場合、相続人らや受遺者が共同で面倒な相続手続を進める必要がなくなります。通常、遺言執行者には弁護士などの専門家に頼むことが多く、プロが対応することで不備などもなく関係者に負担をかけずに済みます。
遺言書作成にも専門家のサポートが役に立ちますので、遺言書作成と一緒に遺言執行者の依頼もしておくと良いでしょう。